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「コウさん、大丈夫だった?どこも・・・怪我とかしてない!?」
息が整ってから、テティスはコウの元へ近づいてくる。
「・・・え?あ、ああ。大丈夫だよ。テティスちゃんの・・・おかげでね」
心配そうに自分を見るテティスにそう答えるコウの表情は笑っているけれど、若干引きつっている。
(俺がかける言葉だよな・・・これって本当は)
・・・と、そこへマークも駆け寄ってきて。
「コウさん、大丈夫だった?どこも・・・怪我とかしてない!?」
と、真剣な表情でマークが見つめてくる。
「やめれ。お前がやると気持ち悪い」
そう、コウがマークを手で追い払うような動作をする。
「あらひどい。人が心配してるっていうのに。
・・・そもそもあなたが・・・」
「わかった、わかった!・・・油断してた俺が悪かったんですよ」
と、八つ当たりするように、コウ。
わかってる。十分に、わかってる。だから、それを人に、それも
自分の相棒に言われると、かなりへこんでしまう。
本当に、なにをやっていたんだか。
と、そんなコウの心境を察してか、そうでないのか。いや、してないだろうけれど。多分。
・・・まあ、それはともかく。
「・・・なんか、考え事してたんか?魔物の気配に気づかないくらい、真剣に・・・」と、マークが言ってくる。
(・・・まあ、お前よりはいろいろと。考えてなきゃいけないからなぁ・・・)
声には出さずに、コウは胸の内でそう突っ込みをいれておく。
・・・それから少しばかり時間が経過して。全員が落ち着いたところで。
「さて、何か最初っからバタバタしちゃったけど。気を取り直して、先に進もうか」
と、コウはマークとテティスにそう告げる。
それを聞いたふたりは立ち上がって。森の奥へと進み始める。・・・と。
「あ、テティスちゃん!」
コウは、テティスを呼び止める。
「なーに?コウさん」
「ああ・・・。さっきは本当に、テティスちゃんのおかげで助かったよ。ありがとう」
「ふふふっ!どーいたしましてー♪」
コウに感謝の言葉を言われてテティスは、とても自慢げな表情をしてみせる。
それを見て、コウは少し・・・いや。かなり不安になる。
声には出していないけれど、彼女のそれは。
「また同じ事があっても、自分が魔物を退治するから」と、そう言っているように見えて。だから。
「・・・でもね、テティスちゃん。さっきはその・・・まあ、そういう状況だったからっていうか。
まあ、仕方なかったんだけれど。
魔物と戦ったりするのはすごく危険な事で。そしてそれは、俺達のお仕事だから。
テティスちゃんはもう。魔物と戦おうだとかそんな事、考えちゃだめだよ。・・・いいかい?」
と、コウはテティスにそう注意した。絶対だよ、と、念も押した。
最初は、少し不機嫌そうな表情をしたテティスだったけれど。
すぐに笑顔で「わかった!」と返事を返してきた。
それから3人は、エルフを捜す為に森の奥へと進んでいく。
途中、何度か魔物の群れなどにに遭遇するのだけれど、
それらは、コウとマークふたりの見事なコンビネーションで難なく撃破していく。
そうして、今回はテティスもいるのでところどころ休憩しながら。
それでも3時間ほどで、森の中心部、そこを流れるトリトン河の、
そこに架かる巨大な橋へと着いた。
「うっ・・・わぁぁぁああああ・・・!!!」
馬車での移動の時よりも、はるかに高いテンションで。
テティスが、その巨大な橋の上を走っていく。
「すごい、すごい!すごい!!おっきい・・・!!」
ある程度走っていったところで、テティスは立ち止まって。
くるりとコウ達の方を向いて、大声で叫んでくる。
「コウさーーん!マークさーーん!
ここ、すっごいねぇーーー!!きれーーだねぇーーー!!」
マークが、負けじと大声で叫び返す。
「おおーー!!すっごいだろぉーーーー!!」
「うんーーーー!!」
「でも、その橋の下に広がってる景色もまたすごいんだぜーーー!!きれーーだぜーーー!!」
「本当ーーーー!!」
マークの言葉を聞いて、テティスはその景色を見ようと橋の手すりのところへ走っていく。
そんなふたりのやりとりを見て、コウは笑いながら言う。
「・・・なんか、いつ頃からか観光旅行みたくなってるような気もするんだけど」
「だなぁー。実際、テティスちゃんの中ではそれもあるんじゃねー?
住んでる街から今まで一度も出たことないって、言ってたしさ」
マークのそれを聞いて、コウの表情は少しだけ沈む。
馬車で移動中のやり取りの事を、思い出して。
(本人は気にしないなんて言ったけど。やっぱりあの時は、悪いこと聞いちゃったよなぁ)
・・・と。
「テティスちゃん、さっきからテンション上がりっぱなしだなぁ。
このまま本来の目的を忘れなきゃいいけどなー」
と、マークがそう笑いながら言うのが聞こえて。
「そうだな」
コウも笑ってそう返す。それから、
「ちょうどお日さんも真上に来てるな。ちょうどいいから、ここらでまた休憩しよう」
そうマークに言って、マークが首を縦に振ったのを確認。
ふたりはテティスのところへ行こうと、歩き出す。
と、思い出したようにマークが口を開く。
「そーいや、この場所じゃなかったっけ?」
突然の事で、訳がわからずにコウは訊き返す。
「は?何が」
「何がって、俺達がここに来た目的でしょーが」
「・・・・・・」 「・・・・・・あ!」
マークにそう言われて、コウはハッとする。
「・・・そうだ。俺達はここで・・・」
と。その時。
ガサガサッ・・・。
コウ達の背後から、草花を踏んだような音が聞こえた。
コウとマークは瞬時にその音に反応して、体制を整える。
ふたりの視線の先には、ただ無数に立ち並ぶ木々。
その間からは、まだ何も確認できない。
また、魔物か。
「・・・やれやれ。今日はえらくモテモテじゃありませんの?コウさん」
「それはどうも」
冗談を言いながらも、その表情と体制は崩さずに。
コウとマークは、その音の発信源が何なのかを確かめようと、
その木々の間をじっと凝視する。
と。
ガサガサッ・・・。
もう一度、さっきと同じ、草花を踏んだらしい音。
・・・いる。
コウとマークが、さらに身構える。
すると、木の後ろから。
ゆっくりとその、音の発信源が姿を現す。それは―
「コウ」
「・・・あ、ああ」
木の陰から現れたのは。
コウとマークが、この森で見た、エルフ。
また、ここで出会うなんて。
(・・・間違い・・・ない。こいつだ。・・・なんだか、出来すぎてるぜ・・・)
そんな事を思いながら。コウはそのエルフを少しの間じっと観察した。
以前は、お互い目があうと、目の前のエルフはどこかへと走り去ってしまった。
けれど今回は。エルフもまた、その場を動かないで。
コウ達の方をじっと見つめている。
(・・・ん?いや、違う・・・)
違う。
(違う。このエルフ・・・見ているのは“俺達”じゃない)
その言葉どおり。
コウ達とエルフは、お互いに正面を向いて立っている。
だけれど、エルフのその視線は・・・。
コウ達の、その後ろにある“何か”を―
と、その時、そのコウ達の背後から。
テティスが叫びながら走ってくる。
「セレス君っ!!」
「えっ!?」「はっ!?」
コウとマークはふたりはテティスの方へ向き直る。
テティスが叫んだその名前は―
コウとマークは、再びエルフの方へ向き直って。
「・・・セレス?」
「・・・本当に?」
・・・どうやら、そういう事らしかった。
それから、しばらくテティスと、そのエルフ―セレス―は
コウ達と少し離れた場所で話をしていた。
「・・・セレス君。ボクも、みんなも心配したんだよ!」
と、セレスを大声で叱るテティスと、
「ごめんなさい・・・テティス」
そのテティスに叱られて、沈んだ様子のセレス。
そんな、ふたりのやりとりを見ていて。
「・・・自然だな」
と、コウが言う。
「何が?」
「いや、だからさ。テティスちゃんと、あのセレスって子。
あのふたりの間には、『人間』とか『エルフ』とかってのが、全然ないんだなって・・・」
「・・・ああ」
このふたりが、たまたまそうなのかもしれない。けれど。
もう少しだけ続きそうな、テティスとセレスのやりとりを見ながら、コウは。
(・・・人間。・・・エルフ。・・・か。
“種族”って・・・なんなんだろう・・・?)
と、そんな答えの出そうで出ないような事を考えたりしていた。
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